『未来』二〇一七年八月(787号)未来広場みらい・プラザ掲載作品

聖橋に続く昌平坂学問所 楷の樹しげり諸葛菜さく

昌平坂湯島坂越え会いに行く子の住む湯島坂多き町

天神の坂に女男あり男坂子はひとり上り物言わずゆく

久々に子に添い上る男坂湯島の梅の盛りを過ぎて

見えないと子の眼がこぼす暗闇にごぼんごぼんと湧き出すものあり

モビールの糸切れて飛ぶ白き鳩やさしさが鬱のはじまりだった

かつて子が探しそこねたイースターの卵がひとつ物語生む

絹糸のごとき雨降る春の午後龍髭菜のパスタが旨し

Date: 19/08/15 | Category: 短歌 | コメント »

『未来』二〇一七年七月(786号)未来広場みらい・プラザ掲載作品

さくさくと朝の敷石踏みゆけばいつよりか降るセシウムの雪

一面の処女雪根雪ひとの身もがれきも木々もふかく埋めて

ベラルーシの作家スベトラーナ・アレクシュビッチ小さき人らに耳を澄ませと

新入生迎えるために磨かれし床は砂浜ひき潮のとき

教壇に向かうたび聴く海鳴りのごときがわれをずずんと立たしむ

芽キャベツのようにうすくひったりと心を閉ざす四月の少女ら

教壇を降りて語れば少女らは早春の波ゆったりと寄す

芯が回り芯の折れないシャープペン少女らの持つ小さき防具

Date: 19/08/15 | Category: 短歌 | コメント »

『未来』二〇一八年三月(794号)未来広場みらい・プラザ掲載作品

側溝に猿が一匹息絶えているかもしれない師走の朝

迅速に走ってもなお走らねば冷たいものつかまれそうで

物言えば喉の奥から突き上げて尖った刃が出そうで黙る

タブレットに英単語打たせ英文を書かせて教師は何を教える

学校でほっとしたくて向かうのはトイレの奥のゆがんだ便座

太ももの皮膚が便座でぬくもってじんわり私の心が戻る

まっ白な壁と廊下に映る影われより人間めいて放課後

午前二時止まったままの鳩時計 鳩は何を吐いたのだろう

Date: 19/08/15 | Category: 短歌 | コメント »